地域課題対応支援事業

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No.10 ケアしあうミュージアム

No.10 ケアしあうミュージアム)

実行委員会

ケアしあうミュージアム事業実行委員会

中核館

ボーダレス・アートミュージアムNO-MA

事業目的

昨年度までの取組の中から浮かび上がった課題に向き合い、ケアしあうミュージアム事業の内容を深め、広めていくことを目的とする。盲ろう者自身の発信の場を創出するなかで、新たな関係性を生み出し、共生社会を目指します。在日ブラジル人学校の子どもたちが、アートを通じて日本の文化にふれ、自ら発信することにより、多様な価値を認め合う社会環境を醸成する。地域との交流では、引き続き小さなコミュニティの独自の文化に目を向け、記録・発信することでその価値への気づきを促す。
ケアしあうことで他者とのつながりに気がついたとき、新たなつながりが生まれ、持続可能なネットワークが構築される。事業の効果を一つの地域、一つの団体にとどまらず、多くの人や団体へと広げるために取組を継続し、より多くの人が幸福を享受できる社会が実現していくことを目指す。

事業概要

社会情勢や環境、障害などにより、文化的な生活を営むことに制約がかかる人がいるという社会状況に目を向け、中核館が介在し課題に向き合い、誰もがケアしあう社会の在り方の模索に取り組んだ。盲ろう者と学生とともに作るワークショップ、在日ブラジル人学校に通う子どもたちとアートブックの制作、中核館近隣地域である沖島のインタビューとブックレットの作成といった3つのプロジェクトを進め、それらの成果を広めるWEBフォーラムを実施した。

実施項目・実施体系

1.「NPO法人しが盲ろう者友の会」と学生とともに作るワークショップ制作
 ①盲ろう者、大学生との検討会議
 ②鑑賞会の実施
 ③ワークショップの実施
 ④聞き取り、アンケート調査の実施
2.「サンタナ学園」に通う子どもたちが滋賀の文化を伝えるアートブック制作
 ①アートブック制作に向けたワークショップの実施
 ②サンタナ学園の子どもたちによる取材および撮影
 ③アートブックの制作・配布
 ④アンケート調査の実施
3.沖島での祭事・文化についてのインタビューとブックレット作成
 ①検討会議の実施
 ②インタビュー・撮影の実施
 ③ブックレットの作成
 ④アンケート調査の実施
4.ケアしあうミュージアムWEBフォーラムの実施
 ①トークセッションの実施
 ②中核館ウェブサイトでの映像公開

実施後の成果・効果等

1.「NPO法人しが盲ろう者友の会」と学生とともに作るワークショップ
アートを媒介として盲ろう者自身の発信の場を創出するなかで、成安造形大学の大学生が検討委員としてプロジェクトに参加し、ともにワークショップを作り上げることで、新たな関係性が生み出された。NPO法人しが盲ろう者友の会(以下、友の会)の協力のもと、盲ろう者2名、支援者2名、成安造形大学学生2名に参画いただき、7月24日に第1回検討会議、8月29日に鑑賞会、10月23日に第2回検討会議を行った。
友の会の検討委員と行った第1回検討会議では、大学生とともにどのような鑑賞会を行うかを検討した。それをもとに、盲ろう者2名、大学生2名が一緒に作品を鑑賞する鑑賞会を実施。事前に盲ろう者が選定していた作品を、大学生がアイマスクをした状態でさわって鑑賞し、盲ろう者と大学生で意見交換が行われた。盲ろう者から「学生と一緒に鑑賞したことで新たな発見があった」「ハート形の作品を桜の花びらと表現したことが面白かった」などの声が聞かれ、大学生からは「見て鑑賞するよりも時間をかけてじっくり作品の細部まで鑑賞できた」「さわって鑑賞する経験がほとんどなく、楽しかった」と感想が聞かれた。
第2回検討会議では、盲ろう者、大学生とともに、ワークショップの内容を検討。中核館であるボーダレス・アートミュージアムNO-MAで開催されていた「触の祭典『ユニバーサル・ミュージアム さわる!めぐる物語』」の関連イベントとして参加者を募集し、
盲ろう者2名、大学生2名を講師として、一般参加者4名で11月26日に開催した。前半の作品鑑賞では作品を黒いシートで覆い、見えない状態でさわって鑑賞。後半はさわった作品の印象を基に粘土とモールで作品を制作して感想を共有した。「さわる方向が違うと作品の感じ方が違って面白い」「みんなが見えない状態で鑑賞して、想像することが楽しかった」といった感想が聞かれた。
また、上記展覧会において、鑑賞会で鑑賞した作品を展示。鑑賞会で盲ろう者と大学生が交わした言葉を基に音声記録を制作して、展覧会会場で来場者に共有した。
盲ろう者との作品鑑賞にまつわる取り組みはこれまでにも行ってきたが、ワークショップ参加者との交流や、大学生との意見交換を通じて、参加した友の会の検討委員から「芸術鑑賞がより深まった」「盲ろう者の一方的な思いを知ってもらう場から、新たな気づきが生まれる場になった」といった声が聞かれた。大学生からも「気づきが多かった」と感想があった。また、ミュージアムとしても、ワークショップの実施、音声記録の展示により、目指している「誰もが楽しめる美術館」へアクセシビリティの強化が図られた。

2.「サンタナ学園」に通う子どもたちが滋賀の文化を伝えるアートブック制作
在日ブラジル人学校の子どもたちが、アートを通じて日本の文化に触れ、自ら発信することにより、多様な価値を認め合う社会環境の醸成を目指すプロジェクトにおいて、アーティストの金仁淑氏のディレクションにより、滋賀のアートスポットを紹介するアートブックを制作した。
6月19日に実施したレクチャーには、サンタナ学園の11歳から18歳までの子どもたち21名が参加。子どもたちが訪れたことのある滋賀県のスポットをアンケート調査し、現地調査を行った。8月28日にアートブック制作に向けたレクチャーを行い、デザイナー、編集者が講師となり取材やデザインの流れを伝え、子どもたちに本ができるまでの工程を学ぶ機会とした。アートスポット等の取材は、8月から10月まで計8回行い、23名の子どもたちが参加した。アートスポットを訪れる際、「この施設は誰が何のために作った?」「美しいと感じたところは?」など質問が記されたワークシートを手渡し、子どもたちがポルトガル語で記入した。撮影に関心がある子どもには一眼レフカメラを手渡し、アートと感じたものを撮影してもらった。取材した内容を学園の他の子どもたちに発表する形をとったことで、子どもたちの取材が積極的になり、不明点を掘り下げて質問する姿にもつながった。滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールでは、プロジェクトに参加しているほとんどの生徒が取材した。舞台上からオペラホールの広さ、声の響き方などを体験。「映画の中にいるようだった」「エレガントな空間だった」「夢が実現した」といった声が聞かれた。
取材期間終了後、金仁淑氏とデザイナーの中居真理氏が、子どもたち直筆のコメントや撮影した写真などをアートブックとして編集し、600部制作し配布した。前半のグラビア部分は「滋賀の風景の中にサンタナの子どもたちがいる」というコンセプトの基、金仁淑氏が撮影した写真で構成。後半は滋賀県内のアートスポット16か所を子どもたちの視点を交えて紹介した。
子どもたちへのアンケート等では「滋賀にいろいろなアートがあることに気が付いた」「初めて見るものがたくさんあった」「人生の思い出ができた」といった声が聞かれた。
子どもたちにとってアートに触れただけでなく、取材を通じて多くの人と出会うきかっ
けとなった。スマホの翻訳アプリツールを使うことで日本語がわからなくてもコミュニケーションがとれることを知り、積極的に質問する機会にもなった。取材を受けた各施設にとっても、これまで経験していない文化交流が生まれ、「子どもたちのキラキラした表情に力を得た」という感想から、双方向のケアが存在していたことがうかがえた。

3.沖島での祭事・文化についてのインタビューとブックレット作成
少子高齢化、人口減少などにより、祭事・文化の継承に課題を抱える近江八幡市沖島で暮らす人たちのつながりに目を向けた取り組みでは、7月12日、成安造形大学助教の田口真太郎氏、沖島のコミュニティスペースとなっているカフェを経営する奥村ひとみ氏に参画いただき、検討会議を行った。様々な立場で活動する沖島住民と、島外から沖島を支える関係人口にスポットをあて、インタビューすることを計画。インタビューを集積することにより沖島にまつわるつながりを具現化することを目指した。
7月30日に第1回インタビューを実施。10月にかけて、漁協組合、離島振興推進協議会、地域おこし協力隊など計6回、17名の話を聞いた。インタビュー終了後、10万文字を超えるテキストを、田口氏がKJ法を用いて分析。「沖島つながりマップ」としてまとめ、インタビュー集と併せてブックレットとして1,000部制作して配布した。
インタビューに参加した島民からは「話した内容が活字になると力を持つと感じた」「次につながる機会になると感じた」といった声が聞かれた。NO-MAという美術館として地域に入り、課題を抱える地域のつながりを浮かび上がらせるインタビューを行い、まとめたことは、互いにコミュニティの在り様を認識する場となり、その価値を認識する機会となった。ブックレットは沖島の直近10年の取り組みを知ることができるものとなり、今後、沖島を中心に近江八幡市内で広く読まれることで、沖島への理解が深まるきっかけとなる。

4.ケアしあうミュージアムWEBフォーラムの実施
ケアしあうミュージアム事業の各プロジェクトに参画した関係者によるトークセッションを行い、成果の振り返りに加えて、それを広く共有することを目的としてWEBフォーラムを開催した。1から3のプロジェクトそれぞれで日程を設定。のべ16名の関係者による振り返りトークセッションを収録し、編集した後、中核館であるNO-MAのYouTubeチャンネルに公開し、2/29時点で延べ345回視聴された。サンタナ学園とのアートプロジェクトのトークセッションについては、ポルトガル語字幕を入れた動画を制作し、公開した。

事業実績(PDF)

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