地域課題対応支援事業

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No.40 アートで解決する交流拠点プロジェクト

No.40 アートで解決する交流拠点プロジェクト)

実行委員会

熊本市現代美術館

中核館

熊本市現代美術館

事業目的

2021年度はコロナ禍での臨時休館等が続いたが、唯一の明るいニュースは同年6月に日比野克彦館長(非常勤)が就任したことであった。2007年の個展「日比野克彦 HIGO BY HIBINO」で、肥後象眼、天草陶磁器、八代のイ草、山鹿灯籠、肥後まりをアーティストの視点で新解釈した伝統工芸プロジェクトや、「肥後の石工」にならった市民ボランティアが、段ボールで石垣を作り武者返しを再現する石垣プロジェクトなどで、市民とアートの距離を縮めることに成功した。
そのように街と美術館をつないできた日比野の視点を生かし、行政、地域の中にある様々な課題に対して、アートや美術館を糸口として取り組んでいき、クリエイティブな思考をもった市民を増やしていくことが本事業の目的である。

事業概要

本事業は「熊本市現代美術館を地域の課題を共有し、解決する場に育てる活動」と「地域の課題を、市民や団体とともにアートで解決する活動」で構成した。
専門家のアドバイスをいただきながら、人が入りやすくゆったりと過ごせる場として「ART LAB MARKET」を設計、リニューアル。家具の配置、サイン等で導線や視線を誘導して居心地の良く整え、個人、企業、行政の皆さんの相談に乗ったり、話を聴いたり、市民がなにげなく普段使いできる場として育ててきた。また、気軽に多様なイベントを様々な人達と一緒に行える美術館として、授乳室をアーティストのイラストによって温かい雰囲気にリニューアルしたり、様々なワークショップ(無料~有料、飲食系、アロマ系、デッサン、工作、プロジェクト他)を切れ目なく開催したり、館内外での協働アートプロジェクトを実施したりしながら、市民が手を動かして、何かを作ることで「楽しいと思える」心の動きを追求した。

実施項目・実施体系

1. 熊本市現代美術館を地域の課題を共有し、解決する場に育てる活動
(1) 「ART LAB MARKET」視察・指導及び見学会等
  ① 視察、導線等の指導、意見交換
  ② 設計者の案内による関係者見学会、インタビュー
(2) 「ART LAB MARKET」広報Webページの作成
  ① 熊本市現代美術館ホームページへのページ構築・発信
(3) リニューアル見学会・意見交換会
  ① 館長・設計者による見学会、意見交換会、オープニングイベント
(4) 「ART LAB MARKET」活用方法の提案と発信
  ① 「ART LAB MARKET」等で行うアートコミュニケーション事業リーフレット
(5) 「ART LAB MARKET」等で行うワークショップや御用聞き
  ① ワークショップ会場用看板の作成
  ② ワークショップ・公開制作用等備品の購入
  ③ 小冊子「熊本市現代美術館の館長が市役所に御用聴きに行く理由」の作成(アンケート実施)
2. 地域の課題を、市民や団体とともにアートで解決する活動
(1) 赤ちゃんの居場所を居心地良くするプロジェクト
  ① 授乳室公開ペインティング
(2) アート思考の体験ワークショップ
  ① ワークショップ「和紙でキャスティングをしてみよう」(動画を見て自分でやってみる無料WS)
  ② ワークショップ「さしがさばなワークショップ」(アーティストと一緒におこなう無料WS)
(3) 心の国際交流アートプロジェクト
  ① 「MATCH FLAG PROJECT」(熊本駅前、辛島公園、下通アーケードで開催後、美術館で1ヶ月継続)
(4) 他団体、多分野との連携事業
  ① ブックフェスティバル「本熊本」の共催

実施後の成果・効果等

「ART LAB MARKET」をリニューアルする前と後では明らかに人の流れが変わった。まず、外に向けた広いガラス面にはカッティングシートによる大きな「ART LAB MARKET」の文字が外からも目を惹く。また、館内に入ると「ショップ」「ワークショップルーム」「展示空間」などを緩やかに滲ませるデザインによって、美術館に来館した人の脚が自然と「ART LAB MARKET」に向いており、人の気配があると人が入ってくるという好循環が生まれている。
そもそも美術館の入館者は展覧会によって大きく左右され、展示替え期間中はともするとエントランスがガランとした印象になりがちであったが、今回のリニューアルで熊本地震の時にも感じた美術館の匿名性と人の気配という重要な要素が増し、来館者数にかかわらず心地よい空間となっている。
展覧会とは多様な人の考え方や生き方に出会う場所である。自分の中にある「こうでなければ」という固定観念から少し離れることができる人が増えれば、自分にもひとにも寛容になり、生きやすい社会につながる。これを展覧会場だけではなく、日常的にも伝えていこうという拠点が「ART LAB MARKET」である。日常的に自分とは無関係な人が仕事や社会について議論をしていたり、楽しそうに手を動かしている。失敗を恐れてやらないのではなく、ちょっとやってみることもできる、人々の前向きを日常的にも、特別なイベントとしても後押しする場として、スタートを切ることができた。
継続して行っている「ご用聞き」は、アート思考について行政職員に気づいてもらい、行政から市民に広げることで、まち全体のWell-Beingを目指す、大きなプロジェクトである。アンケート結果からも、行政職員に良い気づきやポジティブな思考が生まれていることが見える。また、ご用聞きを重ねることで、御用同士を掛け合わせたり、企業と繋げることによる科学変化など、マッチングの要素も生まれつつある。ただし、システマティックにしてしまうと、とたんに効果が半減しそうな気がしており、このような縦断的なネットワークを、どのような形で軽やかなうねりにしていくのか、そこに潜んでいるアートの役割を、どう後押ししていけるのかが次の課題であると考えている。

事業実績(PDF)

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