地域課題対応支援事業

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No.22 ケアしあうミュージアム

No.22 ケアしあうミュージアム)

実行委員会

ケアしあうミュージアム事業実行委員会

中核館

ボーダレス・アートミュージアムNO-MA

事業目的

少数者の立場に置かれた人々の社会的排除や孤立感に対し、文化芸術を通して新たな経験や気付きを得ることを目指す「ケア」と、美術館が多様な考え方と出会い、その文化を吸収する「ケア」、2つのケアが行き交い、ミュージアムと対象者が互助の関係を対等に構築しつつ、その支え合いのあり様を記録・発信し、成果を地域社会に還元すること。

事業概要

1.「NPO法人しが盲ろう者友の会」と共働した美術作品鑑賞実践および成果展示
 ① 盲ろう者、支援者との検討会議
 ② 通訳介助者との検討会議
 ③ 鑑賞会の実施
 ④ 成果展示
 ⑤ アンケート調査の実施

2.「サンタナ学園」に通う子どもたちとのアートワークショップ
 ① 調査
 ② アートワークショップの実施
 ③ アンケート調査の実施

3.中核館近隣地域における「地蔵盆」についてのインタビューとブックレット作成
 ① インタビュー
 ② ブックレットの作成
 ③ アンケート調査の実施

4.「ケアしあうミュージアム」フォーラム
 ① フライヤーの発送
 ② フォーラムの開催

5.レポートの公開  
① 中核館ウェブサイトでのレポートの公開

実施後の成果・効果等

1.「NPO法人しが盲ろう者友の会」と共働した美術作品鑑賞実践および成果展示
盲ろう者との美術鑑賞の取り組みでは、NPO法人しが盲ろう者友の会の協力のもと、盲ろう者3名、通訳介助者6名、そのほか支援者の方々に参画いただき、盲ろう者やその支援者との検討会議を2回、通訳介助者との検討会議を2回、盲ろう者の方との鑑賞会を2回行い、その対話の記録をもとにした成果展示を制作し、中核館にて展示を行い、307名(3月29日時点)の来場があった。
検討会議においては、今回初めて通訳介助者との会議の場を設けた。盲ろう者の非常に身近な存在である通訳介助者の方々から貴重な意見を数多くいただくことができ、また、この会議が通訳介助者と中核館とのよいコミュニケーションの場ともなったことで、より充実した鑑賞体験および成果展示の制作につながった。
鑑賞会では、京都市立芸術大学のビジュアル・デザイン研究室に趣旨に賛同いただき協力いただいた。「さわる絵画」と呼ばれる、名画をもとに、その魅力をいかに触覚で表現できるかを考えて制作された作品をお借りして鑑賞した。昨年に引き続き、晴眼者と盲ろう者がともに作品をさわりながら、対話をするという鑑賞方法を用い、滋賀県職員や滋賀県立美術館のエデュケーター、陶芸家など多様な人に参加いただいた。さわることが前提の多様な素材を用いた半立体作品であり、盲ろう者からも鑑賞を楽しめたという声があった。
鑑賞会の対話の記録を体験できる成果展示は、中核館であるボーダレス・アートミュージアムNO-MAにて2月11日から実施した。展示は、「見えない、聞こえない」という盲ろうの状態を体験するのではなく、盲ろう者の方の知覚世界に触れてもらうという趣旨のもと、VRゴーグルをつけて作品が見えない状態のまま、対話の記録を読んだり聞いたりしながら、鑑賞会と同じ作品をさわって鑑賞するというものである。鑑賞者のアンケートでは「新しい芸術の形を紹介してくれてありがとうございます(英文和訳)」「盲ろう者の様々な感じ方を知れて、感激」といった感想があった。
上記の通り、文化へのアクセスが困難な盲ろう者としては主体的な美術鑑賞の機会を得ることができ、ミュージアムとしては盲ろう者との取組から独自の展示方法を案出し、来場者に提示することができたといえる。

2.「サンタナ学園」に通う子どもたちとのアートワークショップ
サンタナ学園の子どもたちとのアートワークショップでは、アーティストとともに本事業の取り組みのため延べ17日間サンタナ学園等を訪れ、近江八幡旧市街地と八幡山を舞台としたアートワークショップを実施し、その後子どもたちが本事業についての発表を卒業式で行った。
アートワークショップ実施前の調査においては、まず彼らのことを知るため、サンタナ学園の見学や、子どもたちや先生1人1人に本事業の趣旨の説明、サンタナ学園や自身のことについてのインタビューを行った。また、アーティストのことを彼らに知ってもらうため、アーティスト自ら、自身の作品の解説を行うなどした。
子どもたちとコミュニケーションを図ることと並行して、ワークショップの実施に向け、近江八幡市旧市街地に詳しいコミュニティデザイナーを招いて、実施予定地の案内や子どもたちを対象にしたワークショップを行った。
11歳から18歳までの23名の子どもたちが参加した11月実施のワークショップでは、近江八幡市旧市街地に残るウィリアム・メレル・ヴォーリズによる和と洋が融合した建築に注目し、ヴォーリズ建築をカメラで撮影しながらの街歩きを通じて、文化がミックスすることの誇りへの気づきを促し、皆で八幡山を登ることで特別な記憶となるよう工夫した。
12月には学園の卒業式において、本取組についての生徒による発表が行われた。また、発表に向けたアンケートの実施や発表者への指導、準備を行った。アンケートでは「新しい人との出会いや新しいことを学ぶことができて、すごくよかった」「お互いの文化を知り、異なる文化の中に共通点があると知るのは素晴らしく楽しいです」といったものがあった。
サンタナ学園の子どもたちとしては、サンタナ学園で学ぶだけでは得難い学習体験や出会いを得ることができ、ミュージアムとしてはアーティストなどとの連携を深めることや外国にルーツを持つ人の視点を学び、吸収することができたといえる。

3.近隣地域の「地蔵盆」についてのインタビューとブックレット作成
地蔵盆についてのインタビューとブックレット作成においては、中核館であるNO-MAの近隣地域を対象に4箇所、13名に地蔵盆についてのインタビューを大学教授等と実施した上、大学教授による寄稿文や助教によるインタビュー要約、インタビュー分析をブックレットとしてまとめた。1,800部作成し、近隣住民や学校、図書館などに配布した。
インタビューにおいては、近江八幡市に情報提供などで協力いただきながら候補地を選定し、事業の趣旨や内容を町内会長や住職に丁寧に説明した上で、中核館近隣の3自治会と1つの寺院に話を伺うことができた。
ブックレットの制作においては、近隣住民自身に手に取ってもらいやすいデザインとするよう気を付けながら、インタビューのまとめや大学教授による専門的な論考、助教による分かりやすい分析が載った幅広い内容にまとめることができた。
インタビューに協力いただいた方へのアンケートでは、「私たちの身近におられるお地蔵さんを益々大事にお守りしなければと思いました」「町内皆でゆっくりお祭りの今後を考えて行きたいと思っています」といった感想があった。
近隣住民としては、身近すぎて気づきにくい伝統的な行事の重要性を再確認でき、ミュージアムとしては、より近隣住民とのネットワークの広がりを持つことができたといえる。

4.ケアしあうミュージアムフォーラムの実施
3つのプロジェクトの成果報告会であるフォーラムについて、2月にフライヤーを7,800部(日本語版7500部、ポルトガル語版300部)作成配布し、3月に現地開催とオンライン配信のハイブリッド形式で開催した。延べ27人が来場し、241回動画が視聴された。
アンケートでは、「YouTubeで配信していただき大変ありがたかったです。配信画面でも、UDトークと手話通訳が付いている様子が拝見でき参考になりました。いずれの事業も単年度の助成金で行われたものとは思えないほど密度が濃く、また関わる方も多様で事務局のみなさまはじめ関係者の方々の熱心な想いを感じられたフォーラムでした。“なぜこの事業を行ったのか”という社会背景まできちんと説明があり、社会とつながるミュージアムの姿を見ることができたと感じました」といった感想があった。  また、オンライン配信の映像を編集したものを中核館のYouTubeチャンネルにアップロードし、中核館ホームページに掲載した。

事業実績(PDF)

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