令和6年度 ネットワークの形成による広域等課題対応支援事業
No.2 国際連携による博物館の多様性・包摂性推進事業
                実行委員会
国際連携による博物館の多様性・包摂性推進事業実行委員会
中核館
国立科学博物館
事業目的
本事業の目的は、日本の博物館における多様性、包摂性といった多視点性の涵養による博物館全体の質的向上に資するため、館種を超えて国際連携に関する調査や研修会を行い、全国の博物館の館長・学芸員をはじめとするスタッフや、学芸員養成に関わる博物館学の研究者等とその成果を共有することであった。 実施に当たっては、国立科学博物館を中核館とし、科学系博物館イノベーションセンターを事務局として東洋文庫、国立民族学博物館、東京富士美術館、古代オリエント博物館と連携しながら実施した。
事業概要
連携各館が中東、ラテンアメリカ、アフリカ、アジア地域をそれぞれ担当し(連携した上で一部重複あり)、博物館の多様性・包摂性に関する研修会の開催、諸外国の博物館の実地調査や国際会議への参加、文献調査、ヒアリング調査等をそれぞれが行った。 それらの資源・ノウハウを中核館において取りまとめ、進捗状況を確認し、課題等を共有し、最終的に公開シンポジウムを行い、報告書を取りまとめることによって連携館のみならず全国の博物館関係者と情報を共有することとしている。
実施項目・実施体系
1.現地調査
(1)メキシコ合衆国オアハカ市 現地調査
(2)南東欧(ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア)現地調査
(3)ICOM-CIPEG 年次大会(スペイン・マドリード)調査
2.研修会の開催
(1)講演会「アラブ・イスラームの文化と魅力 -ICOMドバイ大会に向けて」
(2)講演会「博物館は文化的多様性/包摂性をいかに推進できるか:メキシコ、オアハカ市の版画運動をめぐって」
(3)ブルガリア大使館展・大使館講演会「ブルガリアの文化」
(4)特別講演会「セルビア発、世界へ-国際社会を生き抜くための多様性と包摂性」
(5)特別講演会「エジプト博物館事情―その多様性と包摂性について―」
3.国際会議参加
(1)国際プラネタリウム協会(IPS)ベルリン大会 参加
(2)国際自然史標本保全学会・生物多様性情報標準化委員会沖縄(宜野湾市)参加
(3)ICOM-NATHIST 年次大会(フランス・ナント)参加
(4)ICOM-ICMAH スポーツ博物館ワーキング・グループ(フランス・ニース)参加
(5)ICOM-UMAC 及び UNIVERSEUM 合同年次大会(ドイツ・ドレスデン)参加
(6)ICOM-ICEE 年次大会(エストニア・タルトゥ)参加
(7)第5回世界津波博物館会議(フィリニピン・マニラ)参加
(8)ICOM-ICMAH 年次大会(韓国・ソウル)参加
(9)日本・イラク合同シンポジウム(東京)参加
4.国際シンポジウム及びワークショップ(国立科学博物館)
「博物館の多様性・包摂性を考える」
実施後の成果・効果等
 異文化理解や多文化共生を進める上で博物館の果たす役割は大きく、まさに ICOM の新しい museum 定義に盛り込まれた inclusive や diversity は重要なキーワードであるにもかかわらず、厳しい財政状況下において諸外国の博物館と交流する機会が限られ、国際的かつ多視点に立った長期的展望が描けない館が多いのが実情である。本事業はそうした観点に立って企画したもので、各研修会での参加者は、それぞれ東洋文庫約50人、国立民族学博物館約40人、南東欧(国立科学博物館開催)約50人、古代オリエント博物館約40人であった。シンポジウムには現地参加者 53 名(Zoom 参加者は海外からを含め 126 名)で、うち30 数名がワークショップに参加した。
 シンポジウムのアンケート調査結果では、93.3%が「非常に良かった」、「良かった」と回答し、「国内であまり理解が進んでいないテーマだと感じていたので、多くの方が参加できる形で実施できたことが良かった」、「登壇者も司会者もご挨拶の方も、一人ひとりのお話する内容が真に迫っていて、現在の課題や考え方、乗り越え方のアイディアなどの具体性がとても参考になった」、「『博物館は中立であるべき(ありたい)だが、中立ではありえない』ということ、それを前提に何をするのかを考えさせられた」 「sustainabilityの捉え方にも多様性があるらしいことがこのシンポジウムを通じて感じられた」というようなコメントが寄せられ、参加者に大きな気づきと刺激を与えたことが伺える。
 シンポジウムの登壇者が、趣旨説明を除いてすべて外国人であったことも、本事業にふさわしいものであった。
 なお、本事業で実施した研修会等にはセルビア、ブルガリア、イラクの各駐日大使の臨席があり、本事業で参加した国際会議でも、在スペインスーダン大使や在フィリピン日本大使が出席されており、本事業の重要性を象徴している。
 国際会議の参加に関しては、ICOMの国際委員会を中心に、多様な国、多様なテーマで多くの情報を収集し、ICOM日本委員会はじめ博物館関係の学協会等において情報を共有した。