地域課題対応支援事業
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No.6 多様な地域文化資源を活用した包摂的コミュニティ形成:ミュージアム機能強化のための実践とモデル構築事業
実行委員会
「都市のカルチュラル・ナラティヴ」プロジェクト実行委員会
中核館
慶應義塾大学アート・センター
事業目的
① 港区の多様な地域文化資源を活用し、様々なコミュニティとともに文化プログラムを実践することにより、世代、デジタル・リテラシー、障がい、ライフステージ、価値観などが様々に異なるコミュニティの分断の拡大を防ぎ、「包摂する社会」の実現に寄与する
② 伝統文化から現代文化まで、多様な文化資源を対象とする地域の活動を可視化し、その担い手と活動をつなぐコミュニティを形成する
③ 文化の継承と時代に即した更新、社会への再接続を担うミュージアムの機能を強化するモデルを提示する
事業概要
- 包摂的な文化体験の創出
多様なコミュニティに個別的に働きかけるのではなく、与件や価値観の異なるコミュニティのメンバーが地域文化資源を活用した文化体験にともに参加し、体験を共有することを通じて、コミュニティのゆるやかな接続を図るプログラムを実施する。また、そのような文化体験を可能にするためのコンテンツについて、検討と制作を行う。 - 多様性を見出し、受け入れる:「オブジェクト・ベースト・ラーニング」ワークショップの実施とモデル構築
「オブジェクト・ベースト・ラーニング(OBL)」は、学び手がオブジェクト(=文化財)に直接に出会い、観察をすることによって、文化財と自らの繋がりを深めるとともに、文化財を通じた他者との対話を促す学習方法で、イギリスやオーストラリアの大学ミュージアムで実践が進んでいる。OBLを地域文化資源を対象に展開し、「内省」と「対話」を通じて地域コミュニティの分断を縫い合わせ、多様な文化が共生する社会の実現に寄与する。 - 地域の文化資源を可視化し、相互につなぐラーニング・ワークショップの開催
様々な領域の地域文化資源を可視化し、その活動や担い手をつなぐプログラムを実施する。異なる領域に属する文化資源を組み合わせたラーニング・ワークショップとすることで、ワークショップ企画・実施の過程において、活動や担い手の交流を生み出すとともに、異なる世代の異なる関心をもつ参加者が出会い、多様な価値観を受け入れる機会とする。 - プロジェクトの運営・モデル化
事業の円滑な運営を行うとともに、事業の成果をモデルとして共有してゆくための活動を行う。
実施項目・実施体系
- 包摂的な文化体験の創出
1-1. 寺院における包摂的な体験を立ち上げるワーキング・グループ&ワークショップ[1-1 寺院WG]
① インクルーシヴな寺院体験について考えるワーキング・グループ
② 目の見える人と見えない人:ぶらぶら&まっすぐモードで体験する増上寺の境内散歩
1-2. トークセッション「地域の文化資源を活用したインクルーシヴ・ワークショップの実践」 [1-2 インクルF]
1-3. コレクティヴ・メモリー3 技術編:地域の文化と記憶を映像資料で読み解くラーニング・ワークショップ [1-3 技術WS] - 多様性を見出し、受け入れる:「オブジェクト・ベースト・ラーニング」ワークショップの実施とモデル構築
2-1. 地域文化資源を対象とした「オブジェクト・ベースト・ラーニング」モデル化のためのWG [2-1 OBLWG]
2-2. トーク&ワークショップ「修復家の手とまなざし × オブジェクト・ベースト・ラーニング」[2-2 OBLWS] - 地域の文化資源を可視化し、相互につなぐラーニング・ワークショップの開催
3-1. 寺町に江戸の庭園を訪ねる:寺院の文化と現代における活動を学ぶワークショップ[3-1 寺院WS]
3-2. ピア・ラーニング・ワークショップ「大学生と一緒に、見えない『都市のいきもの』の図鑑をつくろう」 [3-2 現代WS]
3-3. 港区の文化財を見る/学ぶ/知る:地域の建築を開くワークショップ [3-3 建築WS] - プロジェクトの運営・モデル化
4-1. プロジェクト運営 [4 運営]
実施後の成果・効果等
本事業では、「1 包摂的な文化体験の創出」「2. 多様性を見出し、受け入れる:『オブジェクト・ベースド・ラーニング』ワークショップの実施とモデル構築」「3. 地域の文化資源を可視化し、相互につなぐラーニング・ワークショップの開催」「4. プロジェクトの運営・モデル化」の4プロジェクトの元に活動を行った。
1 包摂的な文化体験の創出
世代、デジタル・リテラシー、障がい、ライフステージ、価値観などが様々に異なるコミュニティのメンバーが、地域文化資源を活用した文化体験にともに参加し、体験を共有することを通じて、コミュニティのゆるやかな接続を図るためのプログラムを3種5回実施した。
寺院における包摂的な体験の創出に取り組むプログラムでは、泉岳寺と連携し、寺院の僧侶、目の見えない方、目の見えない方とともに活動している実践者、自治体の文化担当者、ミュージアム関係者が集うワーキング・グループ「インクルーシヴな寺院体験について考えるワーキング・グループ」(参加者8名)を実施した。その後、このWGでの議論も反映させながら、増上寺にてワークショップ「目の見える人と見えない人:ぶらぶら&まっすぐモードで体験する増上寺の境内散歩」(参加者:8名)を開催し、増上寺の案内パンフレットの点訳(500部)にも取り組んだ。
また、プロジェクトでのインクルーシヴを巡る実践を振り返り成果を検証するプログラムとして、トークセッション「地域の文化資源を活用したインクルーシヴ・ワークショップの実践」(参加者:32名)を開催し、モデル共有のための記録映像(1本)を制作しアーカイヴ化した。新旧コミュニティの融合を図るプログラム実践の試みとしては、個人を通じた地域の記録を発掘し、いかに保存するかに焦点を当てたたラーニング・ワークショップ「コレクティヴ・メモリー3 技術編:地域の文化と記憶を映像資料で読み解くラーニング・ワークショップ」を2回開催した(のべ参加者:34名)。
効果:寺院でのWG・WSは、障がいのある/なしといった大きなラベリングを行うのではなく、多様な特性を持つ個人に寄り添い、包摂的な体験を実現するアプローチについて検討する機会となった。トーク・セッションは、日々の活動において、不十分であっても「今回できること」を実践することの重要性を共有する場となった。コレクティヴ・メモリーは、若い世代がアナログ媒体資料に出会い、それを通じて世代の異なる人々やその知識と繫がる機会となった。
2 多様性を見出し、受け入れる:「オブジェクト・ベースト・ラーニング」ワークショップの実施とモデル構築
「オブジェクト・ベースト・ラーニング(OBL)」は、学び手が文化財に直接に出会い、観察をすることによって、文化財と自らの繋がりを深めるとともに、文化財を通じた他者との対話を促す学習方法である。このOBLを地域文化資源を対象に展開し、「内省」と「対話」を通じて地域コミュニティの分断を縫い合わせ、多様な文化が共生する社会の実現に寄与することを目指し、2種3回のプログラムを開催した。「地域文化資源を対象とした『オブジェクト・ベースト・ラーニング』モデル化のためのWG」(参加者:6名)として、見える人・見えない人・見えづらい人がともに参加するプログラムについて実践を通じて検討する機会を設けた。また、OBLの手法を用いて鑑賞体験を深めるとともに、鑑賞体験の多様性を伝えるプログラムとして、トーク「駒井哲郎を語る家族のまなざし」(参加者:25名)、ワークショップ「修復家の手とまなざし:オブジェクト・ベースト・ラーニングワークショプ」(参加者:9名)を開催し、記録映像(1本)を制作しアーカイヴ化した。
効果:WGの中で試行したインクルーシヴ・OBLのワークショップは、日本で初めての試みであり、ミュージアムにおける包摂的活動という文脈においても、またOBLの文脈においても、新しい可能性を開くと想定される。修復家とのワークショップでは、キュレータやエデュケータだけではなく、ミュージアムや作品に関わる多様なメンバーがOBLの実践に携わることで、多様な作品の鑑賞体験を生み出すことができるという手応えを得た。
3 地域の文化資源を可視化し、相互につなぐラーニング・ワークショップの開催
様々な領域の地域文化資源を可視化し文化資源をめぐる活動や担い手をつなぐこと、また活動への参加者同士が交流することを目指して、異なる領域に属する文化資源を組み合わせたラーニング・ワークショップを3種5回開催した。テーマは、寺院文化(江戸・歴史/庭園)、現代アート(現代・美術)、そしてモダニスム建築(近代・建築)とした。
寺院文化(江戸・歴史/庭園)プログラムとしては、江戸時代初期から三田寺町に所在する浄土宗寺院、大松寺の見学会「寺院に江戸の庭園を訪ねる:寺院の文化と現代における活動を学ぶワークショップ」(参加者:15名)を開催した。寺院の空間的制限から参加人数が限定されたため、それを補うための記録映像(1本)を制作した。
現代アート(現代・美術)プログラムとしては、ピア・ラーニング・ワークショップ「大学生と一緒に、見えない『都市のいきもの』の図鑑をつくろう」3-(参加者:18名)を実施した。また、モダニスム建築(近代・建築)を対象として、「建築公開日(建築プロムナード)」(参加者:859 名)、ガイドツアー「普連土学園 × 慶應義塾大学」(参加者:14名)、レクチャー「学校建築に求めた大江宏のモダニズム —— 法政大学から普連土学園まで」(参加者:31名)を実施した。加えて、ワークショップ参加者を越えた体験の共有とモデルの共有化を目的として、成果冊子(250部)を作成した。
効果:寺院WSは、参加者にとって、一般非公開の寺院やその文化財を見学する貴重な機会となっただけではなく、寺院を守る活動へ自分がどのように貢献するか、という視点を喚起するものとなった。ピア・ラーニング・ワークショップは、大学生・中学生の双方にとってアートが社会に向き合う姿勢やプロセスの一端を共有する学びのプログラムとなった。数多くの参加者を得た建築プログラムは、建築の価値を伝えるだけではなく、本プロジェクトの活動を広く知らせる役割も果たすイベントとなった。また、ワークショップ開催のための交渉や議論を通じて、重要な建築を有する地域の学校との連携を深めることができた。
4 プロジェクトの運営・モデル化
プロジェクト運営のための実行委員会会議を1回(参加者:13名)開催し、プロジェクトの活動内容、とくに推進の方法や企画内容、予算、各連携機関の分担について確認した。また、プロジェクトの活動に有効な評価のあり方についての検討会を1回(参加者:7名)開催した。加えてプロジェクトの成果とモデルを広く共有するため、全体報告書(300部)を作成しウェブサイトでも公開を行った。
効果:本プロジェクトでは、イベントをはじめとするプロジェクトの活動をモデルとして外部から参照可能にするため、映像やテキストによる記録化とそのアーカイヴ作成に注力している。その効果として、今年度は、Innovate MUSEUMの支援を受けるプロジェクトとの横連携が実現した。
また、本事業では、目的に対するアウトプットとアウトカム、波及効果(インパクト)として下記の指標を設定した。
事業目的① 港区の多様な地域文化資源を活用し、様々なコミュニティとともに文化プログラムを実践することにより、世代、デジタル・リテラシー、障がい、ライフステージ、価値観などが様々に異なるコミュニティの分断の拡大を防ぎ、「包摂する社会」の実現に寄与する
■ アウトプット:港区の多様な地域文化資源を活用し、様々なコミュニティとともに文化プログラムを実践する
指標① 活用した文化資源の数、及び種別
目標 10件7種(寺院、海洋、映像、現代美術、食文化、修復、近代建築)
成果 10件6種(寺院、映像、現代美術、修復、アート・フェスティバル、近代建築)
指標② 共同したコミュニティの種別
目標 6種(寺院、海洋、現代美術、食文化、近代建築、インクルーシヴ実践)
成果 6種(寺院、現代美術、アート・フェスティバル、近代建築、インクルーシヴ実践、学校)
指標③ 実施したプログラムの数
目標 14プログラム 成果 14プログラム
■ (短期的)アウトカム
①さまざまな関心を持つさまざまな世代の人々がプログラムに参加する
目標 参加する人々の関心や世代 10種 (歴史IG、海洋・自然IG、映像IG、現代美術IG、美術IG、生活文化IG、建築IG、大学生、ミドル世代、シニア世代 ※ IG=Interest Group:興味を持つ人々)
成果 参加する人々の関心や世代9種 (歴史IG、映像IG、現代美術IG、美術IG、建築IG、中学生、大学生、ミドル世代、シニア世代 ※ IG=Interest Group:興味を持つ人々)
②これまで分断されていた地域文化資源とコミュニティが接続される
目標 障がい者の方が、新たな文化機関に足を運ぶきっかけを作る。
成果 視覚障がい者の方が、寺院の文化についての理解を深め、来訪の動機を掴んだ。
③ 異なる世代の間で知識や経験が共有される
目標 プロジェクトのプログラムに異なる世代の人々が参加し、交流の場となる。
成果 10代〜70代までの幅広い世代の人々の参加を得た。一方で、参加者同士の交流については、交流を促進する積極的な働きかけが必要である。
④ 文化体験への参加方法が多様化する
目標 参加形態の異なるプログラムを提供する。
成果 講演会、見学ツアー、文化財ハンドリングワークショップ、アーカイヴ映像など、多様な参加形態を許容するプログラムを実施した。
事業目的② 伝統文化から現代文化まで、多様な文化資源を対象とする地域の活動を可視化し、その担い手と活動をつなぐコミュニティを形成する
■ アウトプット:領域の異なる地域文化資源を対象に、学びを深めるプログラムを開催する
指標① 取り上げる文化資源の種別
目標 3種(江戸・庭園、現代・美術、近代・建築)
成果 3種(江戸・歴史/庭園、現代・美術、近代・建築)
指標② 実施するプログラムの回数
目標 3種6回 成果 3種6回
■ (短期的)アウトカム
① 多様な文化資源を対象とする地域の活動を可視化する
目標 様々な地域文化資源を対象とするプログラムに、これまで参加しなかった人々が参加する。
成果 「地域の文化資源を可視化し、相互につなぐラーニング・ワークショップ」においては、当初の計画を大きく超える937名の参加を得て、参加者層を拡大することができた。
② 地域文化資源を巡る活動を担う人々が相互に繫がる
目標 プロジェクトに協力していただいた組織や人々が、「都市のカルチュラル・ナラティヴ」プロジェクトに参加する
成果 プロジェクトに協力していただいた組織や人々に、プロジェクトの目的や活動内容を詳細に共有し、ご理解をいただくことができた。一方で、どのように参加していただくかについては、より具体的な枠組みが必要であり、今後の課題とする。
事業目的③ 文化の継承と時代に即した更新、社会への再接続を担うミュージアムの機能を強化するモデルを提示する
■ アウトプット:プロジェクトの活動を参照可能なアーカイヴを構築する。
指標① 映像アーカイヴ(記録映像)の作成件数
目標 2件 成果 3件
指標② テキストアーカイヴ(報告書)の作成件数
目標 2件 成果 2件
■ (短期的)アウトカム
① プロジェクトの活動が参照され、プロジェクトの提案するモデルに基づくプログラムが実施される
目標 他機関・他地域でプロジェクトの活動を発表し、モデルを共有する。
成果 Innovate MUSEUMの支援を受けるプロジェクトとの横連携が実現した。