地域課題対応支援事業

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No.38 学校とミュージアムの共創~平和教育と鑑賞プログラム開発~

No.38 学校とミュージアムの共創~平和教育と鑑賞プログラム開発~)

実行委員会

学校と共創する美術で学ぶ平和教育実行委員会

中核館

長崎県美術館

事業目的

本事業の目的は、長崎県美術館の所蔵作品をもとに、美術作品の鑑賞を通して平和について学ぶ「平和教育」プログラム等を長崎県美術館と長崎県内の学校が共創し、芸術的な感性を有し多様な価値観を持ち、自らのことばで発信できる人材を育成することである。長崎県の平和教育の推進に寄与するとともに、離島を含む遠隔地に在住する者や来館が困難なこどもたちに、オンライン授業やデジタル教材を活用した鑑賞プログラムを実践し、美術館教育の県内でのさらなる浸透を実現する。

事業概要

事業目的を実現するために美術館と小中学校が連携し、教員が主体となって実践できる授業案作成を協働する。また教員向けの講演会を開き、平和教育の概念を論理的に整理する機会とした。さらに遠隔地域への手立てとして鑑賞ツールを大学と協働開発し、鑑賞授業(遠隔教育授業含む)にて活用した。また離島地域に所在する博物館と連携し、小学生がロボットを介し交流するプログラムを実施した。

実施項目・実施体系

1.小中学校と連携し「美術で学ぶ平和教育プログラム」を共創する

(1)小中学校を対象としたモデル授業の実施

①モデル授業検討会の開催

②モデル授業の実施

③評価・分析・検証

(2)テクノロジーを導入した美術館活用

①教材開発検討会の開催と製作

②教材活用(モデル授業)

③評価・分析・検証

(3)教員・職員向け研修

①先進事例視察・調査

②講演会の実施 

(4)成果報告

①授業実践事例の公開

②成果報告会の実施 

③報告書作成・発信

実施後の成果・効果等

1.小中学校と連携し「美術で学ぶ平和教育プログラム」を共創する
(1)小中学校を対象としたモデル授業の実施
授業検討会→授業実践→授業検証会を含むPDCAサイクルのプロセスにより各校の授業案
の完成と実施。
①モデル授業検討会の開催
目標・効果:小中学校の教員とブレインストーミング、ミーティングを重ね、それぞれの発達段階や児童生徒の実情に即した授業のねらいや展開を検討する。
測定法:対面やオンラインによる検討会会議録
対象:小学校教員1、中学校教員1、長崎県美術館職員
指標:授業実施までの検討会4回の会議録内容、授業案の完成
 小中学校それぞれの既習内容を踏まえ、小学校は総合的な学習、中学校は美術科での実施を決定し、小中学校合同による検討会の機会も設けた。そうすることにより、小中学校の学習内容が系統立てた鑑賞活動の展開ができた。
②モデル授業の実施
1)長崎市立大浦小学校(5年生)を対象とした授業案作成
目標・効果:互いの見方や感じ方を大事にし、作品のよさや表し方、意図について考える活動を通して平和を希求する心情を育てる。
測定法:児童のワークシート記入、授業の活動様子や発言、検証会の協議内容  
対象:長崎市立大浦小学校5年生73 人
指標:授業中に記入しているワークシートの記入内容や活動時の発言の聞き取りの記録より理解度や目標達成度の分析と授業後の検証会における協議内容の記録
 はじめは作品を直感的な印象でしか捉えられなかったが、話し合いやグループ活動を経て児童の視野・発想の段階的な広がりを感じた。グループ活動において意見の根拠を尋ね合ったり意見の相違点を整理したり、多様な意見をどのようにまとめるかという思考の巡らせ方が積極的な話し合いへと展開できた。音楽科や道徳科の授業で本授業での学びが生かされる発言が見られた。といった授業者の手応えがあった。
2)長崎市立淵中学校(1年生)を対象とした授業案作成
目標・効果:自分の見方や考え方に根拠をもち、他者と対話的に理解を深めることの有意性に気づき、平和教育における過去の学びを未来への学びへとつなげる視点を育む。
測定法:生徒のワークシート記入、授業の活動様子や発言、検証会の協議内容  
対象:長崎市立淵中学校1年生132 人
指標:授業中に記入しているワークシートの記入内容や活動時の発言の聞き取りの記録より理解度や目標達成度の分析と授業後の検証会における協議内容の記録
「鑑賞の手がかりを提示したことで直感的な発想が独り歩きせず、作品からの気づきを分析的に捉えるという思考の筋道が意識でき、根拠を示しながら他者との意見交換ができ論理的思考を促せた」「作品の世界と自分の世界とをつなげて考えることができ、鑑賞教育と未来志向の平和教育の結びつきを実感した」という意見があった。
③評価・分析・検証
目標・効果:授業実施後に検証会を開き、授業案とワークシートのブラッシュアップを図り、完成させたものを情報公開する。
測定法:教育委員会、外部有識者を交えて授業についての振り返りと分析を行い、助言を受けながら授業案へ反映させる。
対象:長崎市教育委員会、外部有識者、小中学校教員、長崎県美術館職員
指標:各学校授業後に検証会を1回ずつ実施し、それぞれの立場からの意見交換を行う。
 小中学校それぞれに授業の手応えや検討事項を分析し、改善案まで含めて記録集にまとめた。
(2)テクノロジーを導入した美術館活用
①教材開発検討会の開催と製作
目標・効果:長崎大学情報データ科学部金谷研究室と協働し、所蔵作品の立体部分の3D画像を製作し、小中学校で使用するパソコンやchrome bookで利用可能なツールにする。
測定法:生徒用chrome bookで利用できるかの検証
対象:長崎大学情報データ科学部研究室
指標:教員用パソコンから画像を開くことができ、児童生徒用chrome bookでの操作。
 画像製作は展示室内の実作品を撮影し、その画像をもとに編集。360度自由に回転操作ができ、モチーフの素材がよくわかり、平面部分との地続きを見せることにより作品の一部であることが分かるようにした。
②教材活用(モデル授業)
1)南島原市にあるこども園にて遠隔教育プログラムの実施。
目標・効果:遠隔地にあるこども園においてオンライン授業を実践し、開発した鑑賞ツールの試験運用を行い、その効果的な活用を探る。
測定法:園児や保育士の反応、実施後のヒアリング
対象:南島原市有家たちばなこども園、たちばなこども園、年長24人
指標:プログラム中の園児の反応の観察や、実施後の保育士による意見交換を基にする。
「作品画像を拡大・回転することで展示室の実作品ではみられないほどの近距離、角度からの鑑賞が可能になる」「場所を選ばないため、普段生活する教室で実施することで鑑賞者が緊張せずに発言できる」という画像ならではの利点が挙げられた。
2)離島部にある壱岐市立一支国博物館とオンラインで結び、ロボットを導入し双方の施設の理解と子どもたちが交流するロボットとめぐるミュージアムツアーの実施。
目標・効果:自分の住む地域にある美術館・博物館を知り、遠隔地域の子ども同士による新たなコミュケーションの場とする。
測定法:参加者のアンケートやふりかえり
対象:長崎県内の小学校4年生~6年生18人
指標:実施後のふりかえりと自由記述形式で記入するアンケート。
 「ロボットを操作しながら長崎市の友達と話せて嬉しかった」「壱岐の知らないことをたくさん知れた」スクリーンに映った映像を見ながら施設見学は臨場感あふれる体験となり、お互い行ってみたいという思いが高まった。
③評価・分析・検証
目標・効果:遠隔教育プログラムにおいてデジタルツールの効果的な活用を促す。
測定法:参加者のようす、ヒアリング、アンケート
対象:遠隔地域の参加者
指標:遠隔教育プログラム実施後の担当者によるふりかえりや自由記述形式で記入するアンケート結果
 オンラインにて鑑賞ツールを拡大したり近距離で見せたり、画像の特性を十分に活かした鑑賞活動が実現し、授業後に実際に美術館を訪れた園児がいて鑑賞の深まりと来館促進につながった。また遠隔地にある博物館と連携し、ロボットを遠隔操作することにより参加者の主体的な活動となり、子どもたち同士の交流が深まる機会となった。
(3)教員・職員向け研修
①先進事例視察・調査
目標・効果:沖縄県の施設、美術館を訪問し、長崎や広島の原爆被害との違いや他館の取組について調査し、自館の今後の取組の参考とする。
測定法:他館施設紹介ガイド、視察後の調査記録
対象:他館の施設職員
指標:訪問先の施設職員への聞き取り調査や施設見学を行う。
 沖縄県平和祈念資料館やひめゆり平和祈念資料館では、展示物から沖縄県の地上戦による惨劇を目の当たりにし、原爆を落とされた惨状とは違う、戦争の生々しさを肌で感じた。佐喜眞美術館では平和学習の目的で修学旅行コースを通年実施していることや沖縄県立博物館・美術館の戦争や平和をテーマに制作する作家の作品を展示空間づくりに反映させていることなど館の特性を活かした取組が大変参考になった。
②講演会の実施(山岸利次氏による講演) 
目標・効果:長崎県内に勤務する教員向けにこれからの平和教育へ向けて美術館活用の意義や考え方を深める
測定法:参加者のアンケート調査
対象:長崎県内教員11人(内訳:幼保2人、小学校2人、中学校2人、高等学校2人、大学3人)
指標:実施後に満足度を測る質問と自由記述形式で記入するアンケート。
実施後のアンケート回答は6人、満足した5人、普通1人という結果であった。「平和教育に特化した学校に勤めて10年になるが平和教育の形骸化は年々強く感じている。指導する教師側がもっと目線を変えていく必要がある。美術的な視点から平和教育を行うことの有効性は大変高いと実感している。」「保育の中で定期的にVTSを行っている。子どもたちの共感力や発信する力、根拠を言う力などが少しずつ育まれている。平和教育に対する思考停止や責任問題が今回の講演を聞いて少し晴れた。」という貴重な意見があった。
(4)成果報告
①授業実践事例の公開
目標・効果:シンポジウム開催により、本事業の周知と美術館活用の理解促進を図る。
測定法:参加者のリアクションシート記入、アンケート調査
対象:長崎県内に勤務する先生、大学生、博物館関係者31名
指標:事例紹介後の2回リアクションシートを配付し、質問や意見の記入と実施後の自由記述形式で記入するアンケート。
 1回目リアクションシート26人、2回目リアクションシート25人、アンケート27人の回答があった。「生と死、平和と戦争など人間や社会の複雑なものを解決することを急がず、複雑なままでもかかわり続けることができるという可能性を授業案で感じることができた。」「VR・ARを利用した被爆証言会を行ったことがあるがテクノロジーの面白さが勝ってしまい、伝えたいことが十分につたえられなかったことがあった。その辺の難しさを知りたい。」「平和教育を鑑賞で行うという考え方自体が新しい視点だった。戦争や紛争についてのイメージを発信している絵画作品はたくさんあり、抽象的なものを取り上げることで子どもたちの想像力を養うとともに事実を知ることで見方や考え方が深めることができると感じた。」といった貴重な意見が多数挙げられた。
②成果報告会の実施
目標・効果:実行委員や外部有識者に本年度の事業成果を報告し、事業に対する客観的な意見をもらい、次年度取組に向けての分析を行う。
測定法:実行委員、外部有識者によるヒアリング
対象:実行委員3名、外部有識者2名
指標:シンポジウムに参加してもらい、事業内容全般の成果報告を受けて客観的な意見を述べてもらう。
 実行委員や外部有識者併せて5名がシンポジウムへ参加があり、本年度の事業内容や成果について発表をし、報告を行った。そこで鑑賞ツールのクオリティについての言及や美術・平和というテーマを通して子どもたちへの本質を伝えることの重要性などについて意見をもらい、今後の取組の方向性や継続について改めて考えが深まった。
③報告書作成・発信
目標・効果:本事業を活動記録集にまとめ、学校と連携して作成した授業案や鑑賞ツールについては活用方法を案内するリーフレットを作成し、関係各所に当館の事業内容を広く周知する。
測定法:発送先からのリアクション、鑑賞ツール活用申込件数
対象:全国の博物館・美術館、長崎県内に勤務する教員
指標:記録集は700部、リーフレットは4000部作成し、関係各所に送付する。またリーフレットの内容や活用のための申込方法はネット上に情報公開する。
 授業案や鑑賞ツールはネット上に公開し、令和5年4月から運用スタートへ向け、準備を整えている。

事業実績(PDF)

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